税理士業務において最もやってはいけないことは、誤った税務処理や届出書の未提出等で、クライアントに損害を与えてしまうことです。近年、税理士職業賠償責任保険の保険金支払件数は、増加の一途をたどっています。下記は、その件数と支払金額(単位:百万円)の推移です。
保険年度 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 |
支払件数 | 183件 | 281件 | 261件 | 328件 | 425件 | 493件 |
支払金額 | 737 | 802 | 746 | 1,156 | 1,680 | 1,624 |
また、2016年度の税目別支払件数と支払金額は下記のとおりです。
消費税 | 所得税 | 法人税 | 相続税 | 贈与税 | その他 | |
件数 | 221件 | 100件 | 112件 | 28件 | 14件 | 18件 |
金額 | 714 | 235 | 342 | 259 | 41 | 33 |
1件あたりの平均金額 | 3.23 | 2.35 | 3.05 | 9.25 | 2.92 | 1.83 |
件数だけを見ると、消費税の件数が全体の約45%を占めています。そして、そのうち約7割が届出書の提出を失念したことによるものです。制度の適用有無については、そもそも制度を理解しておかないと誤りに気付きにくいかと思いますが、届出書の提出がされたかについては、明らかに分かりますから、損害賠償請求事案となりやすいのでしょう。
また、相続税における支払金額の大きさについても気になるところです。税理士の方であれば理解できる話かと思いますが、財産評価による節税効果が他の税目に比べ極めて大きいため、制度の適用誤りや財産評価の計算ミスが損害賠償請求へとつながりやすいということです。平成28年の東京地裁の判決では、税理士法人の行った相続対策に不備があり、3.3億円の損害賠償責任が認められました。賠償責任保険に加入していたかどうかは分かりませんが、3.3億円なんて個人事業主であれば自己破産でしょうし、法人であってもほとんどの場合は倒産でしょうね。
勤務税理士時代は、2重チェックは当たり前でしたが、独立してからは、当然ながら自分しかいません。チェック体制をどうするか頭の痛いところです。