競馬の話といっても、決して「絶対負けない馬券の買い方」の類の話ではなく、あくまで税金のお話です。
所得区分で、「雑所得」や「一時所得」という言葉を聞いたことはありますか?所得税を計算するためには、まず所得を10種類に区分し、それぞれで計算したうえで合算(合算しないものもあります)して税額を計算します。その10種類のうちの2つが「雑所得」と「一時所得」です。
「雑所得」は、他の9種類のどれにも当てはまらない所得をいい、公的年金等が該当します。「一時所得」は、読んで字のごとく一時的な所得ですから、営利を目的とした継続的行為から生じたものでなく、役務の対価などの性質ではない所得をいい、生命保険の一時金等が該当します。
ここで冒頭の話に戻りますが、競馬の払戻金は、どちらに該当すると思いますか?これに関して裁判でも争われております。
なぜ争われたかというと、所得の区分が違いますから、当然計算方法が違うわけです。「雑所得」では、収入から必要経費が控除できるのに対し、「一時所得」では、収入にかかる直接的な経費しか控除できません。つまりハズレ馬券の購入費用は、「雑所得」であれば控除でき、「一時所得」であれば控除できません。以下は、その判例です。
①最高裁平成29年12月15日判決は、本件の競馬の馬券の払戻金については、馬券購入の態様や利益発生の状況等から雑所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費に該当する
②東京高裁平成28年9月29日判決(最高裁平成29年12月20日上告棄却)は、本件の競馬の馬券の払戻金については、馬券購入の態様や利益発生の状況等から一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費に該当しない
で、結局どっち!?ということなんですが、判決を見ると、あくまで基本は「一時所得」、特殊なケースの場合「雑所得」となりうるということです。これらの判決を受け、国税庁のホームページでは、下記の通り記載しています。(原文のままですいません。)
『競馬の馬券の払戻金の所得区分については、馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して区分されます。
具体的には、馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合は、雑所得に該当すると考えます。
なお、上記に該当しないいわゆる一般の競馬愛好家の方につきましては、従来どおり一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費として控除できませんのでご注意ください。』
「雑所得」となったケースでは、購入期間、回数、頻度もさることながら、6年間いずれの年も利益を上げており(最低で1,800万円、最高で2億円)、回収率が総体で100%を超えるように馬券を選別して購入したといえるため、営利を目的とした行為と認められたようです。
文章が長くなってしまいスイマセン。1つの事案でも見方を変えれば、違った判断が出てきます。「行列のできる法律相談所」などのように。あれは弁護士ですが、税理士も同じです。そこに税理士としての面白さもある反面、怖さもあります。ちなみに、先ほどの「雑所得」と認められた事案、負けていれば、追徴課税は1憶9,400万円だったそうですよ。お~怖っ。